
ヴィーガニズムは地球を救う?
「今月に入ってから、暑い日が続きますね。」
久しぶりに会った人と社交辞令めいた挨拶を交わす際はだいたいこのように始まり、そして「昔はこうじゃなかった、今は異常気象ですね」「いやー、まったく(そう)ですねー」というやり取りで終わるように思います。平成中期以降の生まれの方はピンとこないかもしれませんが、一定の年齢より上の方は「自分が若かった頃とは異なる現代の気候変動」について話すことを好む傾向があるように思います。かく言う私(昭和後期生まれ)も、気付くと「いやあ、エルニーニョとかのせいですかねえ…」なんて返していたりするのですが。
小論文でも、気候変動に関するテーマが設定されている例は枚挙に暇がありません。地球温暖化、SDGs、森林破壊などさまざまなアプローチが考えられますが、少し切り口を変えて「ヴィーガニズム」と呼ばれる主義は環境問題を意識したものだということについて考えてみたいと思います。英国ヴィーガン協会によれば、ヴィーガニズムとは「人間は動物の搾取なしで生きるべきであるとする主義である」と定義されています。自身の目的のために生き物を利用する権利はないとする原理なので、この原理が食に適用された場合は「生肉、魚、鶏肉、卵、はちみつと動物乳とその他動物由来品」は食生活から除外されるべきということになります。
動物福祉への懸念から発生した主義と言えますが、ヴィーガニズムへの転換の理由として「畜産による環境問題への影響」を挙げる人々も一定数います。地球温暖化の原因とされる二酸化炭素やメタンガスの排出は畜産業によるものが大きいことから、肉の消費を抑えて畜産代替品を利用することが気候変動への具体的な対策の一つになるというのです。たしかに畜産業の抑制が二酸化炭素の排出削減の一助となるのは素晴らしいことですが、一方で畜産の代替となる手段や方法が新たな環境問題に繋がらないかという視点が出てくるように思います。食生活の面で言えば、代替食品に必要な穀物・豆類の生産量増加は新たな農地を必要とするため森林伐採に繋がる懸念がありますし、効率的に作物を収穫するために過度な農薬が散布されるおそれもあります。そのような問題を引き起こさないためには、単純に「全て植物(由来)なら良い」とするのではなく、その植物や農作物がどのように作られ、どのように消費されるべきなのかというところまで遡ることが必要になるのではないでしょうか。遠いところからエネルギーをかけて運ばれてきたものではなく近くで生産されたものを選んだり、化学肥料を使わずに作られたものを選ぶといった各個人の行動や、そのような商品を消費者が認知できるような表示を義務化する等の仕組み作りを検討すべきかと思います。
…と、そのようなことを、ある5月下旬のくらくらするほど暑い日に、私は大手デパートの菓子売り場でヴィーガン向けの手土産を探しながら考えていました。差し上げる先は、インドご出身のヴィーガンの方(50代男性)です。一説によれば、インドは住民の4割ほどが菜食主義者(ベジタリアン)で、ヒンドゥー教やジャイナ教などの基本である「アヒンサー(非暴力、非殺生)」を思想的な起源とするようです。ものごとを突き詰めて考えるには、出来事、パターン、構造、メンタル・モデル(信念や宗教など)まで思考を深堀りする必要があるのが面白いところですね。「システム思考で論に深みを出す」とは、当塾の代表が学生指導の際に強調して伝えているものです。ご興味をお持ちになったら、是非一度カンザキジュクの門を叩いてみてくださいね。カリキュラムを受けた後は、きっと世界が変わって見えるはずですよ。