夏越の祓と防災意識

2022年も、気づけば半分過ぎようとしています。

1年の折り返しである6月30日には 半年の厄を払い 残り半年の無事を願う「夏越の祓」という神事があります。各地の神社に「茅の輪」が設けられ、茅の輪をくぐることで厄が落ち、身が清められるとされています。また人形(ひとがた)に自分の罪や穢れを託し、身代りとして神社におさめたり、川に流したり、火で焚き上げたり・・・。日本各地で頻発する地震や、水害が多くなるこの時期を迎え、「どうか次の半年、平穏に過ごせますように」と、願わずにはいられません。

6月は災害を中心にお伝えしてきましたので、最後に多くの災害研究残した 昭和の学者を紹介したいと思います。 

「天災は忘れられたる頃来る」(天災は忘れた頃にやってくる、という認識が一般的ですね)という言葉を残し、大正から昭和初期に活躍した戦前の物理学者「寺田寅彦」です。

地球物理学関連の研究から「金平糖の角」「ひび割れ」といった個性的な研究をされています。また夏目漱石とも親交があり、夏目作品の登場人物のモデルとも言われています。執筆活動も熱心で「茶わんの湯」「理科教育」など、現代でも充分通じる内容になっています。

今回は災害について、一部引用し取り上げていきたいと思います。

「悪い年回りはむしろいつかは回って来るのが自然の鉄則であると覚悟を定めて、良い年回りの間に充分の用意をしておかなければならないということは、実に明白すぎるほど明白なことであるが、またこれほど万人がきれいに忘れがちなこともまれである。」
出典:『天災と国防(昭和9年11月)』

「文明が進むほど天災による損害の程度も累進する傾向があるという事実を充分に自覚して、そして平生から それに対する防御策を講じなければならないはずであるのに、それがいっこうにできないのは どういうわけであるか。そのおもなる原因は、畢竟そういう天災が きわめてまれにしか起こらないで、ちょうど人が前車の顛覆(てんぷく)を忘れたころにそろそろ後車をひきだすようになるからであろう。」
出典:『天災と国防(昭和9年11月)』

「二千年の歴史によって代表された経験的基礎を無視して 他所から借り集めた風土に合わぬ材料で建てた仮小屋のような新しい哲学などは よくよく吟味しないと甚だ危ないものである。それにもかかわらず、うかうかとそういうものに頼って脚下の安全なものを棄てようとする、それと同じ心理が、正しく地震や津浪の災害を招致する、というようりはむしろ、地震や津浪から災害を製造する原動力になるのである。」   
出典:『津浪と人間(昭和8年5月)』

発表から90年近く経ってもその鋭い指摘が胸にささります。

「人間は忘れっぽい」ということ、地震は「過去の習慣に忠実で」「頑固に、保守的に執念深くやって来る」ということを、強く自覚する必要がありそうです。しかし世界に比べ激甚な自然災害が多発している日本だからこそ、民度の高い国民性が造られた、といった指摘には 思わずうなずいてしまいました。もちろん昭和の文献なので現代と比べ違和感を覚える箇所もあります。

しかし あらゆる現象をきちんと捉え、数十年後にはどう変化するのか。物事を中心に据え、前後左右あらゆる視点から考察できる、その知見の広さは 私たちも見習うべきものがあるように思います。気象予報や社会システムにより、私たちの生活は日々改善されています。それでも災害からは避けられず、一人ひとりの防災意識を高めておく必要がありそうです。

茅の輪をくぐり 残りの半年の無事を願うからこそ、私もそこで終わらずに この機会に「防災」について考えてみようと思います。

※「津浪と人間」「震災日記より」「災難雑考」など災害関連はもちろんお勧めですが、「茶わんの湯」「科学者とあたま」「怪異考」「神話と地球物理学」などの随筆もとても魅力的です!文系理系関係なく、お子さまにもお勧めです~!

参考:寺田寅彦 『天災と国防』 解説 畑村洋太郎

講談社学術文庫 2011年8月26日 第5刷発行