文化芸術とウェルビーイング

11月のブログテーマは「文化」です。「文化」という言葉は非常に広範な意味を有しており、かつ小論文の頻出テーマでもありますね。

当塾のブログでは「日本文化」「地域文化」「文化と季節感」を主題とした記事を掲載してきましたが、私が文化と聞いてまず思い浮かべたのは「文化庁」でした。非常に安直ではありますが、どのような目的のもとに何をやっている省庁なのかを調べるため、まずはホームページを閲覧してみました。

文化庁は文部科学省に属する庁です。文部科学省が教育、科学技術・学術、スポーツ、文化の分野における政策を展開する中で、文化庁は「新たな『文化芸術立国』(文化芸術振興を国の政策の根幹に据えた国づくり)の実現を目指して、文化芸術振興に関する様々な政策を進めている(文化庁ホームページより抜粋)」庁とのことです。 

当ページには文化庁が行った統計・調査研究を閲覧できるコンテンツがありますが、その中で興味深い記事を見つけました。「文化に関する世論調査(令和3年度調査)」というものです。調査目的は「文化に対する国民の意識を把握し、今後の施策の参考とする」とありますが、調査概要の中に「ウェルビーイングに関すること」という項目があります。ウェルビーイングとは幸福で肉体的、精神的、社会的すべてにおいて満たされた状態をいいます。

この調査によると、文化芸術活動を鑑賞したり実践したりしている人はそうでない人よりも「自分は幸せだ」「自分は健康だ」「自分は人生に満足している」といった幸福度が高いということがわかったのです。この結果を見た時に真っ先に考えたのは、日本と諸外国における芸術(とりわけハイ・カルチャー)に触れる機会の差です。

日本は世界に誇る高度なアニメ・漫画文化を有しています。加えてYouTubeや各種サブスクリプションの隆盛により、私たちは豊富な面白いコンテンツを容易に楽しむことができます。しかし、そういったサブ・カルチャーはもれなくハイ・カルチャーの流れをくんだものと言えるでしょう。YouTubeのチャンネルを見る回数に対して、私たちは何度美術館を訪れているでしょうか。日本人がハイ・カルチャーに触れて文化的素養を育む機会が諸外国人に比べて少ないという事実については一考する余地があるように思います。

例えばイギリスの美術館・博物館の入場料はもれなく無料であり、国民・観光客関係なく全員が入場できます。日本に比べて貧富の差が激しく、多くの物乞いが道端に座りこんでいる国ではありますが、彼らが身なりの綺麗な人と並んで名画を鑑賞している様を見ると、貧富や身分の差に関係なく芸術のすばらしさを享受できる成熟した文化を有しているのだなと考えさせられます。世界的に有名なロックミュージシャンであるデヴィッド・ボウイも、創作活動に行き詰まると度々美術館を訪れて芸術に触れ、イマジネーションを膨らませて自身の作品に活かしていたそうですよ。

コロナ禍において中止されていた芸術イベントが、ここにきて少しずつ復活の兆しを見せてきていますね。秋と言えば芸術の秋という言葉もあります。普段は訪れる機会の無い美術館や博物館を訪問し、私たちが日常的に見聞きしているコンテンツの源流となるハイ・カルチャーに触れてみるのも良い経験になるのではないでしょうか。