『江戸のコピーライター』を読んで
こんにちは、小木曽です。今回は、谷峯蔵著『江戸のコピーライター』(岩崎美術社)を紹介します。「江戸」と「コピーライター」という単語が並んでいるなんて不思議ですね。確かに「コピーライター」という言葉は海外からやって来たもので、江戸時代には存在しなかったものです。しかし、日本には短歌や俳句という短い文字数で自分が感じたことや、見た風景、自然などのありさまを言葉にして伝えるという文化があります。江戸時時代には、歌人や俳人、戯文家などが商売用の看板や引き札に書く言葉を考案していました。こうして書かれた言葉は「コピー」と呼ぶのに十分な宣伝効果を持っており、その考案者を「コピーライター」と表現しているのです。
さて、江戸時代からある「コピー」として有名な「土用の丑の日」という言葉があります。
由来には諸説ありますが、平賀源内が発案したとされています。源内は、ある鰻屋に「本日丑の日」と書いて店先に貼ることを勧めました。すると、その鰻屋が大変繁盛したので、ほかの鰻屋もそれを真似るようになり、土用の丑の日に鰻を食べる風習が定着したというものです。
こちらは、ご存知ですか。「現金安売り掛値なし」という言葉です。
これが「コピー」なのかと訝しんでいるでしょうか。しかし、江戸時代の一般商家は、年2回の季節払いの掛売りを当然としていました。その因襲に挑戦した常識を打ち破る考え方だったのです。当時の人々は驚きを持って読んだであろう「コピー」なのです。しかし、現在では標語か慣用句のように感じられます。それぐらい無駄がなくて、もうこれ以上文字数を減らすことが出来ないと感心してしまいました。
こうして江戸のコピーライター達の言葉を読んでいくと、「どのように書くか」ということよりも「何を書くか」について考えに考えを重ね、言葉を絞り込んでいる、と気付きます。長い文章を書こうとすると、つい「どのように書くか」を気にしてしまいますが、やはり「何を書くか」が一番大切なのだと思います。